矯正治療で抜歯する前に知っておきたいメリット・デメリット

歯並びや矯正に関する詳しい知識がないと、治療のために抜歯することに強い抵抗を感じてしまいます。健康な歯を抜くことで深刻なデメリットは生じないのか。抜歯に伴う痛みで辛い思いをしたり、歯を抜くことで老けたりするという話を聞いたことがあるかもしれません。そもそも抜歯をすることにどんなメリットがあるのかもわかりにくいでしょう。

今回はそんな矯正治療で抜歯が必要になるケースやメリット・デメリット、4本一気に抜くこともあるのかなどを名古屋市千種区の星ヶ丘矯正歯科が詳しく解説をします。

矯正治療で抜歯が必要になるケース

【基本】スペースが不足している場合

矯正治療で歯を抜くことを便宜抜歯(べんぎばっし)といいます。文字通り治療の便宜上、必要となる抜歯なので、基本的には何の問題も抱えていない健全歯が対象となります。具体的には、前から4~5番目の小臼歯が対象となりやすいのですが、その理由のほとんどはスペース不足です。以下に挙げるようなケースでは、歯をきれいに並べるための絶対的なスペース量が不足していることから、便宜抜歯が必要となります。

ケース1:顎の骨が小さい・狭い・短い

顎の骨が小さかったり狭かったりすると、28本の永久歯をきれいに並べるためのスペースが不足します。小児矯正であれば、顎の骨の幅を拡げたり、前方への成長を促したりすることでスペースの不足を解消できる場合が多いのですが、成人矯正となるとそれが難しくなるため、便宜抜歯の必要性も高まるのです。

ちなみに、上下左右合わせると最大で4本まで生えてくる親知らずは、基本的に矯正の対象とはなりません。しかし、まっすぐ正常に生えていて、もともと噛み合わせに参加しているようなケースでは矯正の対象となります。

ケース2:上下の噛み合わせが悪い

上下の噛み合わせの悪さが深刻な場合は、抜歯せざるを得ないこともあります。これは上下の顎の位置や大きさのバランスに異常があるケースで多く見られる症状です。外科矯正が望ましいような症例でも、抜歯をした上で適切な歯列矯正を実施することで噛み合わせを正常化できる場合もあるのです。

ケース3:出っ歯や受け口の重症度が高い

出っ歯や受け口は、多くの人に見られる症状です。専門的には出っ歯は上顎前突(じょうがくぜんとつ)、受け口は下顎前突(かがくぜんとつ)と呼ばれる歯並びで、非抜歯で治せるケースも珍しくありません。

ただ、出っ歯や受け口の重症度が高く、口元が極端に突出しているようなケースでは抜歯が必須となるといっても過言ではないでしょう。やはり、極端な出っ歯や受け口の背景にもスペース不足が潜んでいるため、抜歯というダイナミックな方法でなければ改善が難しいのです。

ケース4:親知らずに問題がある

矯正における抜歯では、主に小臼歯が対象となると説明しましたが、現実的には親知らずを抜くことも多々あります。それは親知らずが完全に埋まっている場合も例外ではありません。親知らずが歯並びを悪くしているケースはもちろん、歯列矯正を行う上で障壁となる場合も事前に抜歯することが多いです。

抜歯するメリット・デメリット

ここからは、矯正治療で後悔しないためにも、抜歯に伴うメリットとデメリットの両方をバランスよく説明します。

【メリット】

難しい症例でも治療しやすくなる

歯並びのデコボコが大きく、スペースの不足も顕著に見られる症例は、非抜歯で治療するとなるといろいろな面で無理が出てきます。仕上がりが悪くなるだけでなく、後戻りもしやすくなることでしょう。そうした比較的難しい症例でも、抜歯を行うことで治療しやすくなることは間違いありません。

歯が動きやすくなる

出っ歯や乱ぐい歯の人は実感していることかと思いますが、歯列全体が混雑しています。スペースと歯の本数・大きさが合っていないことから、直線的に並ぶことができず、歯列からはみ出している歯も散見されることでしょう。そうした状態で矯正装置を装着しても、歯がスムーズに動くとは思えません。抜歯を行えばスペースが確保されて混雑が緩和され、歯も動きやすくなります。これは矯正治療で抜歯を行う最大のメリットといえるでしょう。

仕上がりが良くなる

スペースが不足していたり、噛み合わせに深刻な問題を抱えていたりする場合は、抜歯を行うことで仕上がりが良くなります。上でも触れたように、後戻りのリスクも減少することでしょう。

顔貌への影響を抑えられる

抜歯をして歯の本数が減ると、老けるのではないかと心配になっている方もいらっしゃることでしょう。もちろん、患者さんの骨格や歯並びの状態によっては“老ける”といったネガティブな変化が見られる可能性もありますが、基本的には顔貌に対してポジティブな影響が期待できます。上下の歯並び・噛み合わせを正常化できれば、顔立ちも健やかになるものなのです。

【デメリット】

治療期間が長くなる

便宜抜歯の対象となる小臼歯は、歯冠の部分が7~8mm程度あります。それが左右で合計2本なくなるのですから、歯を動かす距離が大きくなり、治療期間も自ずと長くなります。

費用がかかる

矯正治療の便宜抜歯は、原則として自費診療となります。1本あたり5,000~10,000円程度はかかるため、費用負担としてはやや大きくなると言わざるを得ません。親知らずの抜歯に関しては、ケースによって保険が適用されることもありますので、その点は精密検査後に確認すると良いです。

心身に負担がかかる

歯を抜くという処置は、少なからず心や体に負担がかかります。抜歯するのが小臼歯だけならそれほど大きな負担にはならないのですが、親知らずまで抜くとなると相応の痛みや腫れ、ストレスを伴うことになります。

4本一気に抜歯することもある?

【基本】一度に抜くのは最大で2本

矯正治療における抜歯への考え方は、患者さんによって大きく異なります。例えば、4本の小臼歯の抜歯が必要となる場合は、それらを一気に抜いて欲しいと希望される方もいらっしゃいます。確かに、4本一気に抜いてしまえば痛い思いや通院する回数も少なくなりますが、口腔を始めとした身体への負担が大きくなるため、一度に行える抜歯の本数は2本までが限界といえます。

基本的には、上下を合わせて抜くことで、そしゃくへの影響を最小限に抑えます。逆に、心身への負担を考えて1本ずつ抜いて欲しいという希望には応えられることが多いです。

【例外】4本一気に抜くこともある?

極めて例外的なケースではありますが、精神や身体に重大な障害を抱えていて全身麻酔下で抜歯を行う必要がある場合は、4本一気に抜くこともあります。そうしたケースでは手術の前後に入院をして、全身管理を徹底した状態で抜歯をするため、4本以上一気に抜いたとしても深刻なトラブルを招くことはまずないでしょう。ちなみに、全身麻酔下での手術は、大学病院などの大きな医療施設で行います。

まとめ

今回は、矯正治療で後悔しないために、抜歯が必要になるケースやメリット・デメリットなどを名古屋市千種区の星ヶ丘矯正歯科が解説しました。矯正治療ではスペースが不足しているケースで抜歯が必要となりやすいです。

矯正の抜歯にはいくつかのデメリットを伴うものの、それ以上のメリットが得られることに間違いはありません。ですから、精密検査の結果、便宜抜歯が必要と診断された場合は、無理に非抜歯を選択しない方が賢明といえます。抜歯で顔が老けるのが怖い、手術に伴う痛みが不安という方は、まずはお気軽に当院までご相談ください。

著者プロフィール
矯正歯科医師:亀山威一郎

星ヶ丘DC矯正歯科:医院長・愛知学院大学歯学部非常勤講師 ・日本矯正歯科学会 認定医 ・ヨーロッパ舌側矯正歯科学会 専門医 ・世界舌側矯正歯科学会 認定医 小学生のとき矯正治療をするも、保定装置を使わなかったため後戻りし中学生で再治療を経験。そんな子供時代を過ごしながら歯科医師を志す。過去を振り返ったときにあのときに矯正してよかったと思える治療を目ざしています。

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