歯科医師にマウスピース矯正できないと言われたら読む記事

昨今は、歯並びの治療法としてマウスピース矯正を第一希望にしている方が増えてきています。マウスピース矯正は、診療プロセスのほとんどがデジタル化された治療法なので、他のデジタルサービスのように万能だと考えている方が多いようです。

確かにデジタル技術というのはアナログと比較すると明らかに優位なものとして捉えられますが、医療にあたる歯列矯正においては、それが当てはまりません。事実、「マウスピース矯正では治せないけれどワイヤー矯正なら治せる」と診断されるケースは少なくないのです。そこで今回は、歯科医師にマウスピース矯正できないと言われる場合の理由について、名古屋市千種区の星ヶ丘矯正歯科がわかりやすく解説をします。

マウスピース矯正は万能ではありません

テクノロジーがアナログからデジタルへと進歩すると、いろいろなプロセスを省略できたり、やれることが増えたりします。とくにマウスピース矯正は、従来のデコボコとしたマルチブラケット装置ではなく、薄くて透明なマウスピースを1~2週間に1回交換するだけで歯並びが改善されることから、過剰な期待を抱いてしまいがちです。

けれども、マウスピース矯正は万能ではありません。むしろ、歯並びを治療するという点においては、ワイヤー矯正よりも劣っている部分が多いと言っても過言ではないのです。

マウスピース矯正が優れているのは快適性?

歯科医師が歯並びを治療するという観点からマウスピース矯正とワイヤー矯正を比較すると、後者の方が効果的に歯を動かせると答える人が多くを占めることでしょう。なぜなら、ワイヤー矯正は歯を3次元的に動かすのが得意ですし、歯並び・噛み合わせの微調整もしやすいです。

それではなぜマウスピース矯正がここまで人気を集めているのか?それは従来法よりも快適性に優れているからです。とりわけ以下の点に惹かれる患者さんは多いのではないでしょうか。

  • 従来の不快な型取りが不要(口腔内スキャナーを使った場合)
  • 装置を着脱できる
  • 食事や歯磨きをいつも通りに行える
  • 装置が目立たない
  • マウスピースの装着感が良好
  • 装置が粘膜を傷付けることがほとんどない
  • 通院頻度が少ない(2ヵ月に1回程度)

これらはマウスピース矯正に伴う主なメリットですが、そのほとんどが快適性に関係していることがわかります。

マウスピース矯正ができない症例

ここからはマウスピース矯正ができない症例についてご紹介します。

症例1:歯を大きく動かさなければならない

歯並びの重症度が高く、歯を大きく動かさなければならないケースでは、マウスピース矯正できないことがあります。マウスピース矯正は、軽度から中等度の歯並びに適応しやすい矯正法だからです。デコボコが強い叢生(そうせい)や前歯の位置が大きく逸脱した出っ歯や受け口は、マウスピース矯正できれいに治すことが難しい場合が多いのです。

症例2:たくさんの歯を抜かなければならない

患者さんの中には「マウスピース矯正なら非抜歯で矯正できる」と誤解されている方がいらっしゃいます。これはそうした誤解を招くような表現で、マウスピース矯正を宣伝しているサイトがあるからなのでしょう。ただ、実際はそんなことはありません。上段でも述べたように、マウスピース矯正は軽度から中等度の症例に適した矯正法であるため、そもそもたくさんの歯を抜かなければならない症例には向いていません。

ですから、この点は「非抜歯で治せる症例はマウスピース矯正できます」と表現した方が事実に近くなるといえるでしょう。もちろん、抜歯が必要な場合でもマウスピース矯正で治せる症例はありますので、あくまでワイヤー矯正と比較した場合の大まかな違いとして捉えていただけたら幸いです。

症例3:多数のインプラントが埋め込まれている

チタン製の人工歯根を顎の骨に埋め込むインプラントは、矯正によって動かすことはできません。人工歯根には歯根膜が存在していないからです。ワイヤー矯正であれば、インプラントの埋め込まれている位置によっては治療できることもありますが、マウスピース矯正は難しいことが多いです。とくにたくさんのインプラントが埋め込まれている症例は、マウスピース矯正できないといえます。

症例4:歯茎に埋まっている歯がある

歯茎の中に埋まっている歯(埋伏歯)は、マウスピース矯正で引き出すことができません。それは1歯1歯を三次元的に動かせるワイヤー矯正でなければ対処できないのです。埋伏歯をけん引する処置は、矯正治療の中でも高い技術が求められます。

症例4:骨格的な異常が大きい

骨格的な異常が原因で歯並びが悪くなっている場合は、マウスピース矯正できないことが多いです。当然ですがマウスピース矯正で骨格的な問題を改善することは不可能だからです。そうしたケースでは、外科矯正とワイヤー矯正を組み合わせます。

マウスピース矯正ができない人の特徴

マウスピース矯正できない人の症状・症例についてはご理解いただけたかと思います。続いては、マウスピース矯正できない人の特徴についての解説です。

特徴1:マウスピースの装着時間を守れない

マウスピース矯正では、着脱式の装置を使いますが20~22時間程度の装着が義務付けられています。食事と歯磨きの時間を除くと、ほぼ丸1日マウスピースを装着しなければならないのです。このルールを守れない人は、マウスピース矯正できないといえます。

これも実際に治療をスタートして実感することなのですが、マウスピース矯正は“装置を自由に取り外せる”ものではないのです。実質的にはマルチブラケット装置とほぼ同じ時間、装置を装着することになります。

特徴2:マウスピースの交換頻度を守れない

矯正用マウスピースは、1~2週間ごとに交換します。交換頻度は歯科医師の指示に従わなければなりません。歯を早く動かしたいからといって高頻度にマウスピースを交換したり、1ヵ月経っても同じマウスピースを使っていたりすると、予定通りに歯が動いていかないため十分な注意が必要です。そうしたマウスピースの交換頻度を守れない人もマウスピース矯正に向いていないといえるでしょう。

特徴3:虫歯や歯周病リスクが高い

マウスピース矯正では、スタートの時点でゴールまでのマウスピースが完成しています。そのため治療期間中に虫歯や歯周病を重症化させると、歯の形や歯並び、歯槽骨の形態が変化してマウスピースが使えなくなってしまいます。ですから、もともと虫歯・歯周病リスクが高い人にはマウスピース矯正をおすすめすることはできません。

まとめ

今回は、歯科医師にマウスピース矯正できないと言われる理由について、名古屋千種区の星ヶ丘矯正歯科が解説しました。マウスピース矯正は快適ではあるけれど、決して万能な治療法ではないため、マウスピース矯正できないと診断されるケースも珍しくありません。そんな時は、適応範囲が広いワイヤー矯正を検討すると良いでしょう。目立ちにくい方法が希望であれば、裏側矯正という選択肢もあります。

著者プロフィール
矯正歯科医師:亀山威一郎

星ヶ丘DC矯正歯科:医院長・愛知学院大学歯学部非常勤講師 ・日本矯正歯科学会 認定医 ・ヨーロッパ舌側矯正歯科学会 専門医 ・世界舌側矯正歯科学会 認定医 小学生のとき矯正治療をするも、保定装置を使わなかったため後戻りし中学生で再治療を経験。そんな子供時代を過ごしながら歯科医師を志す。過去を振り返ったときにあのときに矯正してよかったと思える治療を目ざしています。

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